世の中には様々な製品がありますが、それらすべて誰かが考えて生み出したものです。そういった製品はどのように世に送り出されるのでしょうか。製品の設計をする人だけでなく、それに携わっている人であれば誰でも開発の全体的の流れを知っておくことは非常に重要です。
製品開発の流れ
製品を製造販売するにあたって、製品開発というのは最も重要なプロジェクトになります。製品開発の流れについて説明をしたいと思います。業界や企業、プロジェクト規模等によって変わってくることもありますが、あくまでどういったステップを踏むのかという一例としてとらえてください。
製品開発の大まかなステップとしては、主に「製品企画」「構想設計」「詳細設計」「試作・評価」「量産試作」に分けられます。また、これらの各ステップにおいて、社内の関係する部門が集まって審議をし、次のステップに進んでよいか判断をする必要があります。設計図を描いている段階でそもそも市場に求められている性能と違うことが分かった、いざ量産しようと思ったらコストが高すぎて売れる見込みがなかった、という事態を防ぐためです。各ステップで確認すべき項目をチェックすることで後戻りのない開発行為が行いやすくなります。

製品企画
開発プロジェクトの立ち上げに当たる部分です。どんな製品をいつまでに作るのかといった仕様を洗い出し、計画を立てます。製品を売って利益を得るためには、社会や業界の環境、市場のニーズを把握して製品開発の計画を立てる必要があります。他社の動向や業界の傾向を調査するのも効果的です。プロジェクトによっては企業の方向性を決める重要な段階でもあります。

主な検討事項
この計画段階で、次のような項目について総合的に検討し判断をしていくことが一般的です。
- 性能
どういった市場に向けてどんな性能の製品を作るのかという重要な項目です。ここで顧客に魅力的な価値のある仕様となるよう決めていきます。ただ品質が良く性能が高いというだけでなく、顧客の求める性能となっていることが重要です。 - コスト
単に製品コストや販売価格だけでなく、開発にかける人員や期間、新しい設備投資や調達先の選定、予想される売れ行きといったことも加味して利益が得られるかどうかを判断する必要があります。10万個売れれば利益が得られると計画していても年間1,000個しか製造できなかったり、市場に10万個の売り上げが期待できなければ意味がありません。 - 時期
開発にどの程度の期間をかけて、いつ販売するか、そしていつまでその製品を売り続けることができるかといったことを確認、決めていきます。同じ性能なら他社より早く発売したほうが有利ですし、発売後に他社が高性能の新製品を出せばせっかく開発した製品が売れなくなる可能性もあります。
構想設計
製品企画段階で挙げられた内容に沿って、製品としてどういった性能が必要か、それが製品として実現できるものなのかを検討します。製作図まで作らなくとも、企画に沿って大まかな設計をすることで企画段階では見えてこなかった問題点や、解決すべき課題が見えてきます。この段階ではまだ設計の方向性や課題の解決方法など不確定要素が多いため、様々な候補を比較検討することもあります。場合によっては企画の部分的な修正が必要になってくることもあります。
主な検討事項
- 詳細仕様
企画段階で挙げられた製品としての性能を元に、細かい主要な構成部品ごとに必要な性能を実際の使用環境も考慮しながら仕様や目標を定量的に定めます。こういった環境で使用されるので筐体の強度はどの程度必要か、この使用条件が考えられるので製品の想定寿命を満たすためには駆動部分は何時間あるいは何回駆動できる必要がある、といった内容を細かく検討していきます。 - 実現性
必要な仕様が現時点で実現可能なのか、課題がある場合はどういったどういった方向性で開発すれば実現できる見込みがあるのかといったいった内容を確認します。技術的に実現可能なものでも、不確定要素が多かったり歩留まりが悪くて量産には使えない、コストが高くつきすぎるといったことはよくあり、製品として見込みがあるかを見極める必要があります。
詳細設計
構想設計で決めた方向性で製品づくりに向けた設計を行います。この段階で材料や具体的な寸法、組み立て方法などの検討に入ります。ここが一番開発らしいステップかもしれません。
主な検討事項
- 機器構造
詳細仕様に沿うように実装の検討、機器の設計をしていきます。この時に材料や製造、組み立て方法等を決めたり、材料や部品の入手性、生産ライン、製造にかかる時間といった生産に必要な事項を見積もり、量産ができるかどうかを確認していきます。長期間販売を続けるものであれば、生産ラインの寿命や、必要な部品を長期間調達できるかといったことの確認が必要となる場合もあります。 - 部品図
細かい構造が決まったら実際のモノづくりに必要な図面を作成していきます。小さな製品でも分解すると複数の部品に分けられます。当然その一部品ごとに図面が必要ですし、それらを組み立てるための図面も必要です。部品単位では過去の部品の流用をすることもありますが、新製品の開発ではかなりの量の図面が必要です。


試作・評価
詳細設計が完了したら実際に試作品を作って評価をしていきます。設計したものを実際に作り、期待通りのものが作れているかの確認です。開発難易度が高いほどここで思わぬ問題が出てきたりするものです。
主な検討事項
- 試作
性能評価をするために制作した図面に沿って試作を行います。あくまで製品の評価のための試作なので専用型などの投資は控えたり、何かあった時に型改造ができるような準備をしておきます。材料や成型方法、大きさにもよりますが、専用の型となると数十万~数千万規模の投資が必要になってきます。専用型の投資をしても、評価で思った結果とならずに設計変更が必要という結論になると、無駄な投資になってしまいます。工作機械で削り出したり3Dプリンタを使うなど、単価としては時間やコストがかかっても無駄な投資を防ぐことができます。量産時には工場内で作るものでも試作メーカーに依頼することも多いです。 - 評価
試作品が完成したら、企画時に決めた性能、必要な性能を満たしているか、設計した通りに動いているか、また正しく組み立てられたかといったことを確認していきます。試作時にはあらかじめ評価仕様、評価方法を計画しておくことが重要です。強度の評価が必要なのに3Dプリンターで形だけ似せて作ったものでは正確な強度は分かりませんし、破壊試験をしてしまってからでは機能や寿命の評価は当然できません。評価においても、必要があれば外部の評価機関や認定機関を利用することもあります。

この試作評価の際は複数案試作をして評価していって最良のものを採用したり、手直しをしながら評価を行っていったりすることもあります。
量産試作
製品として性能が問題ないことが確かめられたら、安定して設計通りの製品が作れるか量産性の確認をしていきます。どんなに設計時に検討して、試作・評価を行っても実際に量産をしてみないとわからないこと、気付けないことは多くあります。実際の製品の歩留まりや組み立て時間、または作業者のミス。想定通りにいかないことや改善点が見つかることもあり、細かい設計変更等をすることもあります。この後は実際に量産、販売されることになるので、量産を始めたはいいが実は不良品だった、思ったように作れなかったといったことにならないよう、この試作で実際の性能や量産性を最終確認します。


まとめ
これらのステップは当然開発者のみで進めるわけではなく、営業、資材調達、製造、品証といった他部門とも連携しながら進めます。冒頭に書いた通り、全ての製品開発が必ずこのプロセスになっているわけではありませんが、その流れの概要を一例として紹介しました。ものづくりに携わっている人は、自分の関わる製品が企画から量産(生産)までどういった流れで開発されているかを詳しく調べてみると、自身の業務に活きてくるものと思います。