設計をしていくとミスをすることはあります。単純な誤記や記載漏れ程度であればよいのですが、作ってみたらうまくいかなかった、そもそも作ろうとしたら作れないというミスも多くあります。こういったミスは誰でもする可能性のある事で、経験から学ぶことが多いです。大切なのは過去のミスから学び繰り返さないことです。ここでは私がやってしまった、やりそうになった、見かけたミスを紹介していきます。今から設計をしようとしている、している方もこれを参考に設計を見直してみてください。
溶接肉との干渉
部品を製作後に組み立てようとしたら、部品製作時の溶接肉がボルトやほかの部品と干渉してしまったというミスです。溶接肉というのは図面に記載しないですし、3Dモデルでも再現しないことが多いです。また、部品を溶接する図面と組み立てる図面は異なるため、気づきにくい点でもあります。


溶接サイズについてはちゃんと検討している、図面で指示しているという場合も注意が必要です。サイズというのは実際の必要な溶接肉の厚さを示しているもので、実際の溶接肉の寸法を表すものではありませんので、溶接時の環境や姿勢によって必要サイズ以上に溶接肉が広がっている可能性もあります。

このような問題には次のような対策が考えられます。
- 溶接から十分に離す
- 断続溶接であれば部品を取り付ける部分に溶接をしないようにする
機械加工のピン角
部品をはめ込むような窪みを機械加工で作ろうとしましたが、実際には機械加工ですることはできません。機械加工では下図のように削っていくことになるため、3壁面すべてがピン角になるような形状は削ることができず、最後は必ず刃の半径分削り残しができてしまいます。



壁面に囲まれた隅には次のような対策をします。
- 隅アールをつける
窪みに取り付ける相手材に、窪みのアールより大きな面取りをして干渉しないようにします。 - ニガシをつける
相手材の形状を変更できない場合、一番隅まで削れるように余分に削るような加工です。
この際、「R○以下」や「ニガシの方向は任意」等しておくと、刃の大きさや加工の方向といった制限が少なくなります。こうすると作業者がその適切な方法で加工することができ、結果として必要な性能を最小の手間(コスト)で作ることができます。ただただすべての寸法を記載するのではなく、こういった工夫も必要になってきます。


組み立てミスを誘発する設計
設計ミスというわけではありませんが、組み立てるときのミスを誘発するような設計です。次の設計図は二つのネジ穴があり二本のボルトで固定できるような部品になっています。一見何も問題ないように見えます。

しかし、実際に製品を作ってみて取り付けようとするとどうでしょう。

左右の穴が端から20mmと25mmと似ているため、左右が分かりにくいのではないでしょうか。当然ですが実際の部品に寸法は書かれていません。こうなると取り付けの際に左右を取り違えたり、どちらが端から20mmの穴なのか確認したりといった手間が発生します。この時は逆向きに取り付けられてしまっても、後工程で不具合が発生し原因究明、手戻りといった無駄が発生してしまいます。左右の勝手がある製品などでも発生しやすいです。
この場合は次のような対策が考えられます。
- 向きをなくす
このような部品の場合なら、どちらも同じ寸法にする、左右勝手のある部品ならどちらにも取り付けられるように穴を開ける(使わない穴を余計に開けることになってコストが上がることにあっても、不良品を作るよりははるかにマシです)。 - パット見で間違えないような形状にする
向きをなくせないのであれば、形状を見直したりボルトの位置を大きくずらすことで、作業者が見間違えないような工夫をします。 - 穴の位置を変えたり径を変えて逆向きに取り付けられないようにする
外形的にわかりやすい変えられないのであれば、左右でボルト径を変えたり、逆向きに取り付けると干渉するくらいの差をつけることで逆向きに取り付けられないようにします。物理的に取りつかなければ、その時点でおかしいことに気づくことができ、問題のある製品が後工程へ流れることを防げます。 - 部品に向きや勝手を記載する
どうしても形状を変えられないのであれば、向きや勝手がわかるように製作段階で記載したりします。簡単な印をつけたり、レーザー刻印をつけたりするだけでも十分な効果が見込めます。


左右で物理的に取りつかない差をつけるこういったミス、実際に起こりやすいようで一度とある製品で見かけたことがあります。その製品はスピーカーと放音穴のの中心が微妙にずれていました。分解してみると樹脂製の筐体の内側に、スピーカーが二本のネジで固定されている構造でした。この筐体とスピーカーのネジ止め部がそれぞれ中心から微妙にずれており、逆向きに取り付けられていたようで、スピーカーを逆に取り付けると中心がぴったり合いました。この場合は性能にも大きく影響しないためそのまま出荷されてしまったようです。