二つの部品の結合にする際にボルト結合はとても便利です。適切な工具さえあれば誰でも容易に固定できますし、取り外して繰り返し利用することもできるため、メンテナンスや部品の取り換えが容易に行えます。また、溶接やはんだ付けのように作業者に熱を加えないので様々な材料の結合に使えますし、接着剤のように溶剤の管理や硬化時間も必要ありません。一方で、容易に締め付けて緩めることができるということは、簡単に緩んでしまう、緩んで欲しくないときに緩んでしまう可能性があるということでもあります。
ボルトが緩む原因について説明し、簡単な緩み止め方法をいくつか紹介します。
ボルトの締結とは
そもそも、ボルトはどのように部品を締結しているのでしょうか。
非締結材をボルトで締めていくことで、ボルトは軸方向に引っ張られて軸に微小な伸びが発生します。この伸びがボルトの材料の弾性域であれば元に戻ろうとする力が発生します。この力のことを「軸力」と言っています。これが圧縮力として被締結材同士を押さえ付ける力になっています。いわば、ボルトの軸が引っ張りバネのようになり、被締結材同士を挟みこんで押さえているようになります。ボルトの場合、厳密には軸が延びるだけでなく、ボルトとナットが噛み合っている山部分が変形するなどもう少し複雑です。


また、この時の圧縮力によりボルトと部材の接触面には摩擦力が発生し、ボルトは回転しずらくなります。この摩擦力がボルトの緩みを防いでいるのです。
このように、ボルトを締めることで発生する軸力により部材は締結され、軸力によって発生した摩擦力により緩み回転も防いでいるのです。
ボルトは、材料の弾性域内で延びている必要がありますので、とにかく強く締めれば良いというものではありません。強く締めつけすぎて、材料の疲労限度や降伏点を超えてしまうと、塑性変形となってボルトが使い物にならなくなってしまったり、必要な締結力が得られなかったり、破断してしまう可能性もあります。
この締め付ける時に回転方向に加える力を「締め付けトルク」と言います。締め付けトルクは締め付ける際に工具(スパナ)に加える力:Fにボルトの回転中心から力をかけている点までの距離:Lをかけた値で、単位はN・mです。部品を締結する際に軸力は容易に測定することができませんので、締め付けにかかった力を締め付けトルクとして間接的に測定しているのです。ボルトの材料の疲労限度内かつ、容易に緩み回転しないような軸力が得られるように決められた締め付けトルクを「適正締め付けトルク」と言っています。
締め付けトルクT=F×L[N・m]

小径のネジやボルトを使う場合や、モンキーレンチで不釣り合いな小さいボルトを締める際にはトルクのかけすぎに注意しましょう。ボルト径と頭の大きさが異なる特殊なボルトを使う場合は、トルクレンチを使って締め付けトルクを管理するなどといったことも検討しましょう。できればモンキーレンチの利用は避けたり、特殊なボルトには専用の工具を用意するといったことをしたいものです。
実際には塑性域を使って締め付ける方法もありますが、塑性域に達したボルトは再利用ができないうえに、トルクの管理も難しいため、一部の重要部品に限られるようです。
ボルトはなぜ緩む
では、そもそもボルトが緩むというのはどういった事象でしょう。説明した通りボルトによる締結には軸力が重要となってきます。逆に言えば、この軸力が小さすぎると固定が緩くなったり、摩擦力が低下してボルトが緩み回転してしまいます。ボルトの締結後に軸力が低下してしまう状態を「ボルトが緩む」と言います。
ボルトの緩みには回転緩みと非回転緩みがあります。
回転緩み
回転緩みとはその名の通りボルトが回転することでが緩んでいくものです。主な原因は、締結部分に振動や繰り返し力が加わることが挙げられます。振動や外力などで摩擦面やボルトが微小変形したり、部品同士が動いたりすることで、ボルトが緩む方向に微小回転することがあります。これが繰り返されると、微小緩みも無視できなくなります。このような回転緩みが進展してくると、軸力が弱くなることで摩擦力が弱くなるためにボルトが回転しやすくなったり、締結力が弱くなるために部品も振動しやすくなったりすることで、余計に回転緩みが進展して最終的には軸力が完全に失われてしまいます。基本的に一旦緩んだボルトは自然に締まることはありません。
こういった回転緩みを防ぐには、締結カ所に振動や繰り返しの外力が加わらない構造としたり、軸力を大きく(高規格なボルトを使用)したりする必要があります。合いマークをしてメンテナンス時に緩みが発生していないか検査していくのも有効です。
非回転緩み
非回転緩みとはボルトは回転していないけど軸力が低下していくものです。初期なじみ、陥没、塗装等の破損、熱的要因等様々な原因があります。
- 初期なじみ
被締結材の表面に微小な凹凸がある場合、ボルト締結によって圧力が加わるとその凹凸が平坦化される場合があります。これを初期なじみと言います。凹凸を事前に平坦化する処理を行ったり(なじみを取ると言います)、締結後に増し締めを行うことで初期なじみによる軸力の低下を抑制できます。

- 陥没
被締結材の剛性不足や軸力のかけすぎなどで、被締結材が塑性変形しボルトが陥没してしまうことがあります。被締結材の強度・剛性を上げたり、座金の使用し面厚を下げたりすることで陥没を防ぐことができます。
- 塗装の破損
締結部に塗装等がされている場合、経年で塗装がへたり軸力が低下することがあります。塗装の膜厚管理等が有効です。
- 熱的要因
締結部に熱が加わることで、ボルトや部材が膨張、収縮することで変形し軸力が低下することもあります。溶接熱により部材の機械的性質や組成が変わり表面の凹凸がなくなる初期なじみのような現象が発生することもあります。締結部材の締結部には熱を加えない設計にしたり、材料の線膨張係数を考慮した設計とする必要があります。
緩み止め
このようにボルトが緩む原因というのは様々です。そのため、緩む原因に応じて緩み止めというのも様々です。ここでは代表的な緩み止め方法をいくつか紹介していきます。
- 座金(ワッシャー)
非締結材とボルトの頭の間に挟む座金ですが、最も一般的に使われるのは平座金で、面圧を下げることで非締結材の陥没を防いで緩みを防止します。また、ボルトの回転により部品が傷つくのを防止する効果もあります。ワッシャーは製作時のカエリ(バリのようなもの)があることがありますが、非締結材にカエリとは逆側を当てるのが一般的です。
- バネ座金(スプリングワッシャー)
ワッシャの一カ所に切り込みが入れられてねじれた形状をしています。切れ込み部分がボルトや非締結材に食い込むみ、またねじれ形状が押しつぶされてバネのように反発力を持ち摩擦力が増すことで、回転緩みを起こしにくくなると言われています。座金とボルト頭の間に挟む使い方が一般的です。効果について議論がなされてきているバネ座金ですが、小径のボルトには多少の効果があるのではないかと思います。
上記二つはボルトを使う際に一般的に用いられる部品ですが、その他にも緩み防止を目的とした製品は様々あります。
- ハードロックナット
凸形のナットと凹形のナットのセットで使うもので、凸形のナットを締めた後にかぶせるように凹形のナットを締めていきます。凸部分と凹部分がわずかに偏心しているため、凹形ナットを締めこんだ時にそれぞれのナットのネジ山がボルトに押し付けられてネジ山間の隙間がなくなることで緩みを防止するというものです。
ハードロックナットはなぜゆるまないのか – ハードロック工業株式会社
https://hardlock.co.jp/technical-info/why-hardlock/principle/
- ノルトロックワッシャー
座面にのこぎり状になった2枚のワッシャー1セットのワッシャーで構成されています。締め付けていくと、外側の細かい歯が被締結材に食い込んで緩み方向への回転を防止します。内側の歯はボルト山の螺旋角よりも角度が急なことから、物理的に緩む方向にボルトが回転することを防ぎます。ワッシャーが食い込むことから被締結材には跡がつくことになります。
製品技術 – 株式会社ノルトロックジャパン
https://www.nord-lock.com/ja-jp/nord-lock/technology/
- Uナット
Uナットはナット上部の内側向きにフリクションリングと呼ばれる板バネがカシメられているもので、ナットを締め付けていくとフリクションリングがネジ山に引っ掛かることでバネ力が発生します。このバネ力がナットを被締結材と逆向きの力となるため、ナットとボルトのネジ山間の摩擦力を高めて回転緩みを防止します。
U-NUTが選ばれる理由 – 株式会社冨士精密
https://www.fujiseimitsu.co.id/jp/products/u-nut/detail.php
まとめ
ボルトの締結の仕組み、緩む原因とその対策について説明をしました。紹介した以外にもさまざま緩み止め方法、製品があります。緩む原因に合わせて必要性や使い勝手、当然コスト等も比較して適切と思われる方法を使用しましょう。